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ひのとびら

火の扉

岸田 国士

「時事新報」1944(昭和19)年1月1日~7日、1月9日~2月25日、3月1日~3月5日、3月7日~3月8日、3月11日~3月15日、3月18日~3月21日、3月25日、3月27日~3月29日、4月1日~4月3日、4月7日~4月11日、4月15日~4月19日、4月24日~5月4日、5月6日~5月9日、5月13日~5月17日、5月20日、5月22日~5月24日、5月27日~5月31日、6月3日~6月8日、6月12日~6月17日、6月19日~6月22日、6月24日~6月26日、6月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 页

青空文庫

一たん海に近づいた道は、いつのまにか海から遠ざかつていた。そして、たまには畑らしいものも眼につくけれど、おゝかたは、カラ松と白カバの林を縫うようにして、その道はどこまでも続いていた。

やがて、こゝで車を降りて、右へはいるのだと言われ、康子はハッとしてあたりを見まわした。なるほど、一軒の古びた小屋が大きく林を切り開いた、その道端に建つていて、そこから一筋の通がなゝめ右手の方へ通じている。

彼女は、この、人つ気のない、ぼうばくとした自然のなかへ子供と二人つきり取残されたとき、もう心細さを通りこして、泣くにも泣けぬような絶望感におそわれた。

が、彼女は、気をとりなおして、その小屋の中をのぞいてみた。だれも住んでいる模様はない。たき火をしたらしい跡はあるけれども、たゞそれだけのことである。

「さ、トムちやん、これから歩くのよ。海が見えるまで頑張りましよう。そしたら、もうじきだから、ね」

そう言つて、歩きだしはしたが、林は間もなくつきて、はるかに、小高い砂丘の連らなつている風景が眼にはいつた。

八

その砂丘地帯にたどりつくまでには、小一時間もかゝつた。そして、道はわだちのあとをかすかに残しただけとなり、それも、ところによつて立ち枯れの草の葉のなかに埋もれてしまつていた。