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ひのとびら

火の扉

岸田 国士

「時事新報」1944(昭和19)年1月1日~7日、1月9日~2月25日、3月1日~3月5日、3月7日~3月8日、3月11日~3月15日、3月18日~3月21日、3月25日、3月27日~3月29日、4月1日~4月3日、4月7日~4月11日、4月15日~4月19日、4月24日~5月4日、5月6日~5月9日、5月13日~5月17日、5月20日、5月22日~5月24日、5月27日~5月31日、6月3日~6月8日、6月12日~6月17日、6月19日~6月22日、6月24日~6月26日、6月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 页

青空文庫

待合室には次ぎの列車を待つ人の群があふれていた。

彼女の眼は、忙しくその群集の一人々々を探した。もしやさつきの男がまだいるのではないか? ほんとを言えば、それがばくとした目的で、彼女はこゝへ来たのであつた。

しかし、大阪行はよほど前に出たあとで、今夜は和歌山行が終列車でもうそれだけだということがわかつた。

――どうして、あの時、いつしよに出掛けなかつたんだろう? そうじやない、どうして、広島までいつしよに連れて行つてと頼まなかつたのだろう?

彼女はそれが口惜しくてたまらない。――あの男となら安心だし、それに、もつと/\、いろんな話が聞けただろうに! 広島と宇品なら、同じところと言つてもいゝのだ。自分の方からどうしてそれが言い出せなかつたのだろう? 広島と聞いた時、ふつと、そんな気がしないでもなかつたけれど、さすがに、あの時は……。

そう思えば思うほど、取り返しのつかぬことをしたような気になつてくる。なんとかしてもう一度つかまえる方法はないものか、と、もうじつとしてはいられなくなる。人波をかき分けて、彼女は駅長室へ飛びこむ。そして、今夜の大阪行と連絡する下り列車の時間をたずねた。