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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

「チェッ、残念」

彼は、地だんだを踏んだ。

「ばか!」

「たわけ!」

「間抜けめ」

あらゆる罵詈と乱打が、彼を、地上に蹴ころがした。それを、大村父子は心地よげに見下ろしながら、

「わははは。智恵なし同心め、自分の来るよりもはやく、江戸の方から、種明かしの密書が、宿場次ぎの早飛脚で、飛んで来ているとも知らずに、化け澄ましてきたのは笑止千万だ。――それっ、霧谷の岩牢へ、こやつを抛りこめ」

山扮装の侍の群は、耀蔵のからだを引っ担いで、四明ヶ岳と如意ヶ岳のあいだにある、谷間へ降りて行った。

俗に、霧谷とよぶくらい、そこは、二六時中、霧の霽れたことのない陰湿な沢だった。

ばり、ばり、と枯木や、落葉を踏みしめて来た谷間の岩窟――陽あたらずの岩壁――魔の口のような真っ暗な岩屋牢。

耀蔵は、その中へ、抛り込まれた。

暗い! 夜よりも暗い! 外は絶えずぼやっと霧が煙っている。

「番人なしで大丈夫か」

侍たちは、しばらく、外で騒めいていた。

「なに、この厳重な鉄の柵が破れるものか。――それに、見張は、如意ヶ岳の山の主が、ちょうど、真向うから見張っているんだ」

「ウム、炭焼の作兵衛か。