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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页
なるほど、あの炭焼小屋からは真正面だ」
「しかし、幾日で死ぬだろう」
「まあ、十日も保つか」
「水があるから、案外長く生きてるぞ」
「それにしても、二十日か、二十四、五日もたてば、この湿気だけでも、余病を起してくたばるに違いない」
「では、三十日目に来てみるか」
「その頃には、白骨になっているかも知れん」
そんなことを言い合って、ぞろぞろと、立ち去ってしまった。
――話の様子では、明らかに、自分を餓死させるつもりであることが、耀蔵にも分った。
案の如く、それっ切り、訪れる人間はなかった。絶対に、一粒の米も運ばれなかった。無論、岩窟の中には、何ら口に入れるような物はない。
ただ、滴々と、からだを打つものは、岩壁の肌から乳のように絞られる清水である。
三日――四日――七日――九日――彼は上を向いて落ちてくる清水を口にうけて、生きていた。
ある夜は、凄い暴風があった。ある夜は、谷の霧が、海の底のように見える月夜だった。――そして半月、そして二十日。
死は、一日ごとに迫って来た。
湿気のために、皮膚いちめん、妙な腫物ができて、瀕死の彼を苦しめた。胃も腸も、空ッぽである。