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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 156,866 characters · 318 screens
五
主人は留守、お富は河内屋に引取られる話が纏まって、妙にそわそわしております。
「あの晩の事を思い出して下さい、――御主人の茂三郎さんはどこへも出やしませんか、お嬢さん」
八五郎の遠慮のない問。
「まア――」
お富は美しい眼を見張りましたが、思い直した様子で、
「父さんはどこへも出はしません。戌刻半(午後九時)頃までお店に居て、それから休みました。奉公人が五人も居りますから、誰にも知れないようには外へ出られません」
こうハキハキと言って退けるのです。
「ヘエ、どうも相済みません。とんだお邪魔で――」
八五郎はとうとう尻尾を巻いてしまいました。
「ところで、お嬢さん、明日はいよいよ河内屋へ引取られることになったそうですが、いずれ油屋の佐吉も河内屋へ聟入でしょうな」
平次は突っ込みます。
「…………」
お富は顔を反けました。
「お嬢さん、――これは聴かして下さい」
「私、そんな事知りません」
お富は顔を隠すようにして、奥へ逃込んでしまいました。
五
「八、手前は表から入れ」
平次は花房町の油屋へ行くと、八五郎を表から入れて、自分はいきなり裏へ廻りました。もう夕方で、店の方は何となく忙しそうでもあったのです。