Japanische Klassiker mit Furigana
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だいぼさつとうげ
大菩薩峠13
中里 介山
Lesen Sie 大菩薩峠13 (だいぼさつとうげ) von 中里 介山 (なかざとかいざん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 349.705 Zeichen · 678 Bildschirme
「郁坊やあーい」
立って、道場の武者窓から外をのぞいて見たが、外は暗い。
「郁坊やあーい」
今度は、潜り戸をガラリとあけて外を見たけれども、外はやっぱり暗い。
いつもならば、この暗い中から、のそりとムク犬が尾を振って出るのだが、今晩はそれも無い。
「郁……」
と与八が咽び上って、悄々と道場の真中へ戻って来たが、また飛び上って廊下伝いに、今度は母屋へ向けて一目散に走りました。
「郁坊やあーい」
道場よりは幾倍も広い母屋は、幾倍も淋しい。
母屋のうちを一通り廻って見た与八は、また道場のところへ戻って来て、
「郁……」
でも、何か、外に未練が残るようで、耳を傾けました。
与八は物に動じない男、或いは動ずるほどの感覚を持っていない男ですが、今晩は特別に、何かの幻覚を感じているらしい。
咽びながら静かにしていると、どうやら遠音におさな児の泣く音がする。遠音とはいえ、思いきって近くも聞える。遠くなり近くなって、おさな児の泣く声。
それが気になって、与八は、居ても立ってもいられない様子です。
たまりかねた与八は、ついに草履をひっかけて、表の方へ走り出しました。
よし、何のゆかりもない近所隣りの悪太郎の泣く声であっても、この物すさまじい静けさには堪えられないから、それで、当てはなくとも、泣く子の声でも聞いてみたくなったのでしょう