Japanische Klassiker mit Furigana
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あさくさふどき
浅草風土記
久保田 万太郎
Lesen Sie 浅草風土記 (あさくさふどき) von 久保田 万太郎 (くぼたまんたろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 162.294 Zeichen · 318 Bildschirme
がその桟橋をもっているのである。
が、そんなことはどうでもいい、それよりも、ある夕方、十年まえ紐育で乗ったきりついぞ渡しというものに乗ったことがないという一人の紳士とともに、わたくしは、その桟橋のすぐ上の岸に馬鹿な顔をして立ったのである。……矢っ張、七月の末の、風のない、曇った日だった。
五分、十分、十五分、用捨なく時間は経って行った。が、みえるはずの舟のかげはいくら待ってもみえて来なかった。……はげしく桟橋をあらいつつ上げている汐のいろと一しょに、あたり、みるみるうちに暗くなったということは、それまでは、でも、おぼつかなく読めていた制札の、乗客金二銭、自転車金二銭、乳母車金二銭、人力車金二銭、そうした個条書の文字がわずかな間に、ばッたりと全く見えなくなってしまったのである。
「来るんですか、たしかに?……」
紳士は心細そうにいった。
「来ます」
自信をもってわたくしはいった。
どうしてわたくしに、自信をもってそういえたかということは、わたくしたちの外に、わたくしたちよりもまえからそこに立っている二人の女性があったからである。二人とも浴衣形の、一人は髪を引ッつめにして、大きな新聞紙包みを抱え、一人は銀杏返しの、小さな袱紗づつみを抱えた片っ方の手に、音無しく涼傘をもちそえていた。