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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

二隻の屋形船

潜り戸をトントンと打つ者がある。

「どなたでござるな、かかる深夜に……」

二隻の屋形船

「京都所司代よりまいりましたるもの、大切の文書をたずさえてござる。至急ご主人にお目にかかりたく、この段お取次ぎくださいますよう」門番のとがめた声に答えて、表の声がこう答えた。

「で、ご姓名はなんといわれる」

「番士の矢柄源兵衛と申す」

「よろしゅうござる。おはいりなされ」で、潜り戸がギーとあいて、源兵衛の姿の吸い込まれた後は、ひっそりとして寂しかった。拍子木の鳴る音がする。遠くで犬の吠え声がする。

で、要するにそれだけであった。

こういう事件のあってから、数日たったある日の夜、大川の流れを屋形船が、二隻音もなくすべっていた。

その一隻の屋形船には、不思議にも燈火がついていない。で、真っ暗な船である。漕いでいる船頭の姿さえ、陰影のように真っ黒だ。

が、お客が一人あった。どうやらみすぼらしい浪人らしい。屋形の中に端坐して、物音を聞いているらしい。

船は下流へすべって行く。

が、もう一隻の屋形船には、行燈が細々とともっている。三人の客の影法師が、屋形の障子へうつっている。

その面ざしがよく似ている。