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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

ができるのであった。金兵衛は空地を走っている。頭が大きく体が小さくて、子供のような格好の彼だ。裾をたくし上げて脛を出して、その脛を雑草の露に濡らして、月の光に生白く光らせ、家の群れのほうへ走って行く。

「焼き討ち! 困った! 凄いことになったぞ! ……目明し! 畜生! 代官松め!」

とぎれとぎれに口の中で、連絡のないことをつぶやきながら懸命に金兵衛は走って行く。「いけない、お粂さんしめられるんだぜ! お逃げよ、お逃げよ、お逃げよ! ……まだ大丈夫だ! 火の手があがらない! ……山県の先生! オイ紋也さん! いけない、いけない、殺されるんだぜ!」

金兵衛は懸命に走って行く。こうして空地を走り抜けて、最初の家の群れが彼の前へ立って、彼の行く手をさえぎった時に、その家の群れの露路や小路から、人の群れがゾロゾロと現われて来た。まだ焼き討ちははじまってはいない。焔も煙りも立ってはいない。しかしなんとなく不安と殺気とが、この盛り場へみなぎり出したので、嫖客の群れが恐怖心を抱いて、家路に向かって帰り出した、その人たちの群れなのであった。

「ご免ください、ご免ください!」