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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

顔が合わさる!

小次郎に何の意識があろう。差し出された女の手の先に磁気でも起こっているかのように、連れて小次郎も手を出した。刃物の地に落ちた音がしたが小次郎が刀を落としたのであろう。四本の腕がからみ合い、二つの顔が近寄って行く。

と、この怪しくも肉欲的の、それでいて静的のたたずまいを破って、叱咤するようないかめしい声が、一所から聞こえて来た。

「姫! 穢らわしい! 狂気なされたか!」

抜き身をひっさげて戦慄しながら立っていた北条美作であった。

顔が合わさる!

最初は切って捨てようとし、二度目は生け擒りしようとし、三度目にはまたもや切り捨てようとして、刀を高く振りかむった時に、松永町へ通う横丁から、駕籠の一団が現われ出て、殺そうとした小次郎を、瞬間に中へ取りこめて、切ろうとして追って来た美作を、恐れげもなくさえぎったのであったが、この時の美作の心持ちといえば、行列が異様であったがために「気を呑まれた」というあの心持ちであった。が、彼ほどの人物である。いつまでも気を呑まれてはいなかった。ましてや彼はこの時代における、梟雄であって権臣であって、大目附であろうと若年寄であろうと、はばかったほどの勢力家であった。