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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

それにしても対照の変わっていることよ! 一室においては大義名分の、おだやかな講義が行なわれていていずれは衣紋を正しゅうした、多勢の武士たちがかしこまって、その講義を粛然と聞いているであろうに、廊下では刀を杖に突いた乱髪の負傷した山県紋也が、よろめきながら歩いている。

その紋也の心持ちといえば、竹内式部先生が、書き記した奉公心得書を、講義している老人が、竹内式部先生の、衣鉢を継いで勤王抑覇の、運動を起こした紋也の父の山県大弐や、その同志の藤井右門の行なった業を、行き過ぎた所業だとこのようにいって、非難を加えていることに、憤りを抱いているのであった。

「では父上の遺業を継いで、事を謀っているこの紋也の今日まで行なって来たことも、行き過ぎた行ないといわなければなるまい!」

「いや、そのようなはずはない!」

不意に紋也は歩みを止めた。見れば講義の行なわれている広いらしい部屋の襖の前に、この時たどりついていた。

少し紋也の姿勢がのび、突いていた刀がヒョイと上がり、鐺が左の脇の下から、背後のほうへ突き出された。すぐその鐺の光ったのは紋也の背後の廊下の一所に、網行燈が置かれてあって、その光が鐺を照らしたからであった。