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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页
――じっさい、人が晩年になってから、自分の生き方は間違っていた、自分にはもっとほかの生き方があったのだ、そう思うくらい悲惨なことはありませんからね、だって是れだけはどうしたってやり直すことができないんですから。
藤尾はいまそう云った大助の言葉を思いだしながら、眼の前にいる老女梅八の姿をしみじみと見直す気持だった。
「……ごめん」
門口に人のおとずれる声がしたので、梅八が煙管を置いて立っていった、格子口にいたのは竹亭寒笑だった。
「ふざけちゃあいけないよ、作り声なんぞをしてなんだね」
「あんまりしんとしているからまたどこかの偽の藩札でもこしらえてるんじゃないかと思ってね、当時流行るそうだから」
「寒竹の人情本じゃ有るまいし」
「寒竹はいけないなあ寒竹は」むきになって云うのが聞えた、「雑俳はもう廃業届けが出してあるんですぜ、竹亭寒笑、どうか今後は嘘にも寒竹はなしにして頂きましょう」
梅八は穏やかに笑った。
「案外気が小さいんだね、いいじゃないか、寒竹がとって食やあしまいし、おまえさんにあ寒竹が似合ってるよ、まあおあがりなね寒竹さん」
「えへん、どうせ年増にあもてねえのさ」