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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

女中はけらけら笑いながらこう云った、「こおろぎでも蛇でも蛙でも、川底の石の下にいるじゃじゃ虫でも、源五郎でも、栗の樹の虫でも蚕の蛹でもなんでも、……源五郎虫なんかとても香ばしくって」

「おい止さないか、飯が食えなくなる、勘弁して呉れ」

大助の手を振るようすが可笑しいといって、女中は歯を剥出しにして笑いこけた。……食事が終ってから、どちらが云いだすともなく泊ることになった。予定より道は捗っているし、うまくゆけば跟けて来る新島をやり過すことができるかも知れない。殊に依ったら二三日ここで足を休めてもいいと考えたのである。……黄昏ごろから雨になり、二人は久し振で静かな深い眠りがとれた。

雨は夜が明けても歇まなかった。二階の窓や障子を明けひろげると、眼の届くかぎりが緑の一色で、それが雨あしの去来につれてけぶるように薄くなり濃くなりする、翡翠を溶いて流すような変化の美しさに、二人は暫くうっとりと眺め飽かなかった。……朝食が済んでから、秀之進が窓際に坐って外を見ていると、大助が茶を持って来て、「お頼みがあるんですがね」と云いだした。

「実は柿崎の藤尾さんのことなんだが」