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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

二

「ええ憎みました、人間はあんな眼で人を見るものではないと存じます」

大助はびっくりした、――この娘はひと眼で秀之進の性格を認めたのだ。そう気づいたからである。しかし藤尾はそれ以上なにも云わなかったが、大助は娘の言葉をくりかえし頭のなかで反芻していた。

二

「よう――これはこれは」

明くる朝まだほの暗い時分に大助が浴場へおりてゆくと、湯ぶねの中にいた男がびっくりしたような声で呼びかけた。

「太橋さんの若旦那じゃありませんか、どうなさいました」

「誰だいおまえは」

男には珍しく膚の白い、肉付のいいからだへ湯をかけながら大助はそっちへふり向いた。

「誰だいは御挨拶でげすな、あわよくば人違いだと仰しゃりそうじゃありませんか、そううまくはいきがやの不動尊だ」

湯ぶねの中で立ちあがった男は軽薄な調子でべらべら饒舌りながら寄って来る。年は四十そこそこであろう、色のまっ黒な、馬のように長い顔つきで、前歯が一本かけたままになっている。本名は貝助、竹亭寒笑という号で人情本を書き、笑軒寒竹で雑俳をやり、竹田勘七というしかつめらしい名で劇作もするという男だった。

「なんだ、からす貝か」