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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
「時事新報」1944(昭和19)年1月1日~7日、1月9日~2月25日、3月1日~3月5日、3月7日~3月8日、3月11日~3月15日、3月18日~3月21日、3月25日、3月27日~3月29日、4月1日~4月3日、4月7日~4月11日、4月15日~4月19日、4月24日~5月4日、5月6日~5月9日、5月13日~5月17日、5月20日、5月22日~5月24日、5月27日~5月31日、6月3日~6月8日、6月12日~6月17日、6月19日~6月22日、6月24日~6月26日、6月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 页
真実の声
一
康子は、こんどは、からだを折つて笑い、
「そういうお話なら、まあ、お茶でもいれましよう」
と言いすてゝ座をたつた。
つきのわるいガスの火をつけながら、彼女は、ひとり、さつきからの話の経過をもう一度繰りかえして考えてみた。
単純なようで複雑な男のこゝろ、複雑なようで単純な女のこゝろが、そこでは典型的な対立を示しているように思えた。その二つの心のまじわる線がどこにあるかは別として、危いのは、北原ミユキでなく、市ノ瀬牧人の方だと、彼女は直感した。
茶を運んで座にもどつた時、彼女は、北原ミユキをこのうえ悲しませてはならぬと心に誓つた。
真実の声
一
津軽海峡の連絡船はもう三日欠航をつゞけていた。
青森駅からさん橋までの通路は人に埋まり、町の旅館はどこもむろん満員であつた。もう初雪が降つたというこの地方の、十一月とは思えぬ夜風の冷たさに、破れガラスの窓の下でいく日も船を待つ人々の皮膚は血の気を失い、毛布を頭からかぶつてうずくまる旅なれた連中のすがたのみが、世にもぜいたくなものに思われた。
ひとわたり、この人ごみの中をかきわけて、なにかを探すように歩いてみたが、井出康子はいまにも泣きだしそうな息子の顔をのぞきこみながら言つた――