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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页
作兵衛小屋
どさっと、続いて、誰か仆れた。
「わっ、誰だッ」
「何者だッ」
「一同。――気をッ、気をつけろ」
大村主水は樹の上へ逃げ上がった。それはすばらしい迅さと鋭さを持った一本の山刀だった。いきなり、横合から斬ッてかかって、その人影の誰なるかを問わず、滅茶滅茶に、振ッて振って、振り廻すのであった。
ところへ、更に、また一人。
野獣のような怪老人が、鉞を振りかぶって、山侍の頭蓋骨をたたき廻った。主水の逃げ上がっていた樹は、たちまち、怪老人の鉞で根元から伐られた。めりッと、彼の体を乗せたまま樹の倒れて来るところを、雷撃一閃! 鉞はおどって、
「この! 悪党の餓鬼め」
と、打ち下ろした。
主水の顔は、柘榴のように割れた。
「みなごろしだ! わははは」
怪老人は笑って、次に、岩窟の鉄柵を打ちくだいた。
その間に、一人の若者は、早くも中へおどり込んで、まだ茫然と、棒立ちになっていた耀蔵を背中に背負って、谷から峰へと、一目散に駈け出した。
振り顧ると、谷間は、炎々と焼けていた。
「あっ、山火事」
「なに、渓川があるから、ひとりでに消える。あれで含月荘の侍たちが消しにくる頃には、死骸はみんな灰になる」