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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
と、不平やら、不満やらが、すぐに鎌首を持ち上げて来る。いやだいやだ、人間はいやだ」
左のほうへヒョロヒョロとよろけた。「どっこい」というと足を踏み固めて、両膝へ両手の拳をついたが、
「転んではいけない立っていなければいけない、転んだが最後世間という奴が、重くその上へ乗っかかって来て、起きられないようにおさえつける。立ったり立ったり頑丈に立ったり」――で、酔眼を憤らしくあけたが、その眼の前に躑躅の叢が円らかにコンモリと茂っていて、花がつばらかに咲き出していた。「上にあるものといえば涯のない空だ、周囲にあるものといえば日の光ばかりだ、さえぎるものもなくのびのびとして、勝手に咲くことのできる花、勝手に咲くことのできる花、どうにも俺には羨ましいよ」しばらく躑躅の花を見ていたが、嘉門はフラフラと先へ進んだ。
※(歌記号、1-3-28)いかに童子の御座あるか、童子と呼ぶはいかなるものぞ、山伏たちの御入候か……
寂びた美音で謡い出したのは「大江山」の一曲であった。と、今度は右のほうへヒョロヒョロヒョロヒョロとよろめいた。「どっこい」といって足を踏み固めて、また両膝へ両の拳をついたが、嘉門は胸を張って笑い出した。