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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

抑えろ、抑えろ、抑えつけろ!

こういってなおもいいつづけようとしてか、ペロリと舌で唇をしめした。

抑えろ、抑えろ、抑えつけろ!

嘉門は唇を舌でしめしたが、かなり辛辣な口調をもって、こう左内へいいつづけた。

「あなた様のお父上の美作様を、私は嫌いなのでござりますよ。鷺流は幕府方の流儀であって、和泉流は京師方の流儀である。鷺流のお狂言師の嘉門たる者が、和泉流を習うとは不届きである。よろしく破門をするがよいと、宗家へ押して申されたお方が、美作様だからでございますよ。その他にも万事に美作様には、京師ふうのことをお嫌いなされて、事ごとに圧迫をなさいますそうな。よろしくないことに存じますよ。それに反してこの私は、どちらかと申せば幕府方よりも、京師方のほうが好もしいので、万事に則りたく存じます。……と、このように申しましたならば、美作様のご長男であられるあなた様のお心といたしましてはお怒りになるかは存じませぬが、実際に京師の公卿衆方に対して、幕府のお方のやり口は、苛酷に過ぎるようでございますなあ。ちょっとでも公卿衆方が時世に慨して、兵書をお講じになられたり、武備についてお心を配られると、すぐに迫害をなさいますようで。