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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
巨大な箒木のそれのように、建物の屋根をぬきんでて、空を摩している形があったが、薬研堀不動の森の木であった。その森の木から北東の一帯に、両国の盛り場はあるのであったが、水戸様石置き場の空屋敷も、そこの付近になくてはならない。で、もし石置き場の空屋敷が、焼き討ちにかかったとしたならば、その辺の空がいったいに、深紅に染められなければならなかった。まだ焼き討ちは行なわれないのであろう。その辺の空は月の光で同じ真珠色にぼかされていた。
ふと止めた足をまた運んで、北条美作が歩き出したので、これも同じように足を止めていた桃ノ井兵馬も歩き出した。肩を並べて先へ進む。
「お粂という女の一身については、いっさいをお前へまかせることにするが、あの女にすられた巻き奉書だけは、どうともしてこちらへ取り返さなければならぬ」こういった美作の声の中には、断乎とした決心がこもっていた。
「取り返すことには致しまするが、その巻き奉書にはどのようなことが、記されてあるのでござりましょうか?」ぜひに聞きたいというように、兵馬は好奇心と熱心とで訊ねて、美作の顔をすかして見た。
巻き奉書と秘密文書