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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

愛してはいるが

しかるに紋也は逆に出た。

「しみじみとしたお話などを、あなたと取りかわせておりましょうものなら、あのいつぞやの晩のように、印籠をすられるでござりましょうよ」それから笑い声を高く立てた。

愛してはいるが

なぜそのように山県紋也は、しおらしいお粂の言葉に対して、まるでお粂を冷かすかのような返辞と笑い声とを立てたのであろうか?

紋也はお粂を嫌っているのであろうか? それともそのほかに訳があるのであろうか? それは今のところわからなかった。

そんなような挨拶を紋也にされて、お粂はしおれてしまったであろうか? それとも怒って席を立ったであろうか? いやいや結果は反対であった。そういう紋也の挨拶ぶりが、お粂の心をして自由にさせ、また軽快にさせたらしい。同じように笑い声を高く立てたが、「あの印籠のことでござりますか。でもすり取りはいたしましたものの、お返ししたはずでございますよ。……そうして印籠をすり取りましたわけは、もうあの晩にあなた様に、申し上げたはずでござりますよ。妾という女のあるということと、佐久間町二丁目の土塀のあるお屋敷を、あなた様へ強くお知らせしたい。