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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

だ! ひどいなあ、背後から背中を小突きゃアがる! ……」

あやまったり怒鳴ったり毒吐いたり、悲鳴をあげたり、呪ったりしながら、金兵衛は先へ進むのであったが、露路はといえば一間たらずの幅で、群衆はといえば後から後から、うねるようにして歩いて来るので、早く走ることは困難であった。その上に一方群衆のほうは何物とも知れない不安の空気に、漠然と怯やかされているのである。で、急いでここを出て、家へ帰ろうとしているのである。一足でも余計に先へ出ようと、足を早めているのである。

その群衆と逆行して、群衆の行くほうとは反対のほうへ、傍若無人に乱暴に、人を掻き分けたり突きのけたりして、がむしゃらに行こうとする金兵衛の態度は、群衆には小憎らしく見えたらしい。で、わざと背後から小突いたり、横から拳で突いたりした。しかし金兵衛は群衆から、突かれようが撲られようが邪魔をされようが、そんなことには頓着をしないで依然として人を掻き分けたり、また突きのけたりして先へ進んだ。が、道程の遠く思われることは! そうして歩きにくく思われることは! そのくせ平素の夜であったら、今もがいているこの位置から、紋也とお粂のいる笹家などへは、一走りに行きつくことができるのであった。