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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

……あなたをお探しいたしました。……やっと、……お声が……聞こえましたので……」

「有難い……」と紋也は腕にこめた力で、お粂の肩を引き締めたが、「さあ一緒に! 見付けられないうちに!」

「はい」とお粂も立ち直った。「お屋敷にお帰りなされては、危険至極でございます。……それよりも妾の屋敷のほうへ! 私たちのおります屋敷のほうへ! ……あそこは安全でござります!」

「まずこの空地を! ……一ツ目橋から! ……」

で、二人は走り出した。なおも群衆がぶつかって来て、二人の間をへだてようとする。それを払って突き進む。一ツ目橋を向こうへ越すと、相生町の一画へ出る。それを北のほうへ走って行けば尾上町の河岸へ出る。河岸について走って左へ曲がれば、九十八間の両国橋となる。両国橋を渡り越せば、吉川町となり柳橋となる。そこの町筋を西へ走れば、久左衛門町となり佐久間町となり、儒者ふうの老人の籠っている、例のいかめしい屋敷となる。いつか二人は久左衛門町まで来た。火事を見る人が往来の上や、屋根の上などに立っていたが、その人影とてまれまれであって、町筋はむしろ寂しかった。

紋也もお粂も疲れ切っていた、今にも二人ながら倒れそうであった。