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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
陽がたまって光っているからである。
で、二人は素早く走る。
二人の逃げ方は素早かったが、代官松の追い方は、さらにいっそう素早かった。これは当然というべきであろう。稼業が目明しというのであるから。追うのには慣れているはずである。
「『本郷の殿様』と承知の上で、懐中物をすったのであろうか? それとも知らずにすったのであろうか? きゃつらがきゃつらの残党なら承知ですったと見なさなければならない。何をいったいすったのだろう? 大事な物をすったかもしれない。とっ捕まえて絞り上げて、取った物をこっちへ取り返さなければならない」
左手で衣裳の裾をたぐり、右手で人波を左右へ分け、「どけ! 寄るな! 御用の者だ!」で、ヒタヒタと追っかけた。
こうして十間とは走らなかったであろう、二人の掏摸へ追いついた。
「待て! こいつら! 悪い奴らだ!」
女掏摸の振り袖が風になびいて、眼の前へ流れて来たところを、グッと握った代官松は、こう怒声をあびせかけたが、にわかにその手をダラリと下げると、あらぬ方へ驚きの眼を投げた。
「よッ、これはどうしたのだ、あの老人が歩いている。あの老人に相違ない! 背後姿だが見覚えがある。