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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

と嗄れた声が聞こえた。「…………」――で、嘉門はギョッとして、声の来たほうを振り返って見た。小広い前庭の奥にあたって、この家の玄関が立っていたが、今まで閉ざされていた玄関の戸が、一方へ細くあけられていて、その隙から手燭を携えた緑色の被衣をかずいた女の、物の化じみた姿が見えた。砂金色をした手燭の光が、被衣の中に納まっている女の顔へあたっていたので、女の顔は鮮やかに見えたが、醜い老女の顔であった。「あッ」と嘉門は声を上げた。空家だと思っていた家の中から、そのような大奥の老女めいた女が現われて来たのであるから、驚いて声をあげたのである。

「誰じゃ※(感嘆符疑問符、1-8-78)」と老女はまた声をかけた。と、背後を振り返った。「方々どうやら賊のようでござる!」

「あッ」と嘉門はまた声を上げた。手燭をかかげている老女の背後に、同じように緑色の被衣をかぶった、幾人かの老女がいるばかりでなく、緑色の小袖をまとっている若い美男らしい侍が、幾人かいて戸の隙間から、こなたをのぞいたからであった。

ダ、ダダ、ダ、ダーッと烈しい音がした。嘉門が塀の上から往来の上へ、転落をした音であった。