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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

で、鴫丸を嚇しつけて、抜き身を揮って追い払って、金兵衛は嘉門に追い付こうと、なおも先のほうへ走って行ったところ、代官町へいつか出た。

と、目明しの代官松が、乾児や兄弟分を引き連れて、水戸様石置き場の空屋敷から、自分の家へ帰るのと逢った。ギョッとはしたがさすがは金兵衛で、そのまま引っ返して逃げようとはしないで、こっそりと体を忍ばせて、代官松の住居へ近寄り、彼らのようすをうかがったところ、水戸様石置き場の空屋敷で、紋也やお粂を取り逃がしたことに、怒りをなした代官松が、兇暴となり自暴自棄となって、衆をひきいて佐久間町の、儒者ふうの老人の籠っている、屋敷に乱入をした上で、儒者ふうの老人を退治てしまえと、荒々しく命じている声を聞き、それの用意に取りかかった、兄弟分や乾児の行動を、見届けて金兵衛は胆をつぶした。そこで素早く走り帰って、この一大事を屋敷の人々へ、至急注進しようとした。

で、走って来たのであった。しかし金兵衛は傷を負ってはいたし、おびただしく疲労をしていたので、佐久間町の通りまで来たころには、走ろうにも走ることができなくなった。そこで這ったり躄ったり、うごめいたりして二尺三尺と、儒者ふうの老人の籠っている、屋敷のほうへ進んでいるのであった。