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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
空家へ行こう
身の上となった。……ひょっとかするとあの時の言葉が、別れの言葉ではなかったかしら?」
一軒建物が建っていて、その影が地上に落ちていた。その影の中へ一時はいって、姿を黒めて見えなくなったが、その影からやがて現われて、鈴江の姿が月光に照らされ、顔が明るく見えた時、眼が大きく見開かれた。
「あれは!」と声に出して鈴江はいった。「異様だった駕籠の行列の中に、釣るされていた若衆武士は!」――で、鈴江は棒立ちになった。
空家へ行こう
眼を大きく見開いて、鈴江が棒立ちに立ったのは、思いあたることがあったからであった。紋也の危難を救おうとして、雉子町の自分の家から出て、五十嵐駒雄を伴って佐久間町の二丁目まで来た時であった。緑色の衣裳を一様に着た、四人の若い侍と緑色の被衣を一様にかぶった、四人の老女たちに囲繞されて、黒塗り蒔絵らしい女駕籠が一挺行く手から現われて来て、四軒並んでいた空家の一軒へ、忽然としてはいってしまったが、その時鈴江は二人の侍が、死骸らしい若衆武士の肩と足とを、釣るすがようにささえ持ってやはり空家の一軒へ、はいり込んだのを見て取った。
その時は意外であり、あわただしい場合であったので、その若衆武士の何者であるかに思い及ぶことができなくてただ何となく若衆武士に、見覚えがあるというように思いなされたばかりであっ