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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页
「それじゃあまるでかた無しだ」
「ついでにいい趣向を教えてやる、小説の中へ紅毛人の言葉を入れるんだ、ヘイルメイステルが来たからホントを繋げ、ってなことをやるんだ」
「そいつあ新しい」
寒笑は風向きが変ったのと本当に趣向だと思うのとで膝を乗り出した。
「なに新しかあない、洒落本なんぞじゃあずいぶん使ってる手だ、けれども人情本には珍しいからちょっとは受けるかも知れない」
「そ、それで今のそのフイステルとかなんとかいうのは全体なんのこってす」
「釈迦がそ云ったとさ、おれも知らない」
藤尾はそっとふきだした。そしてそのとき門口へ人のおとずれる声がした。
「よしあたしが出る」
出ようとする梅八より先に、大助が身軽に立っていった。格子口に立っていたのは校川宗兵衛だった。待っていた客ではなかったらしい、大助は慌てて式台で低頭した。
「これはおいでなさいまし」
「暑いな」
「ひどく照ります、どうぞお通り下さい」
宗兵衛は大剣をとってあがった。大助はそのまま離室のほうへ案内をし、戻って寒笑を追いだすと、自分で冷やした手拭を持って宗兵衛の前へ戻った。
「少したのみがある」
宗兵衛は手拭を取りながら云った。