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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

客……すなわち結城寅寿は顔を土色にしたまま、黙って俯向いていた。梅八はその顔をじっとみつめながら、「これはへたに騒いではならない」と気づき、しかしそれはなんだろう、どうしてこの客は、この三人の無法の前に頭を垂れなければならぬのか、そういう疑問がつよく胸へひろがってきた。

「今夜こそ聞かずにはおらん」魁介は決意を籠めて叫んだ、「二人はどこにいるか……断わっておくがごまかしてはいかんぞ、われわれは今日まであらゆる手を尽している、結城寅寿という人物のやり方も心得ているんだ、そして、今夜この機会をつかむのにはそれだけの心をきめているんだ、云って貰おう、大峰と矢田部はどこにいるか」

寅寿は俯向いたまま、呟くような低い声で答えた。

「高松藩邸におる……」

「たしかに」

「そして、近く讃岐へまいる」

意志力を喪った者のように、寅寿の言葉はのろのろとした不鮮明なものだった。魁介はその不鮮明さのなかに、窮地に逐い込まれた寅寿がおのれの危険の代償として真実を告白したことを読んだ。かれは二人のつれにふりかえった。二人も頷いた。

「よし!」魁介は膝を打って立った、「本来なら此処で首を貰うところなんだ、ひと月まえならそうしていたろう、だが今はもうその必要もない、おれが手を出さずとも結城寅寿の命数はきまっている、……鈴木国老や高松侯になにやら