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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

「お眼にかかりました、数日、宿をとりまして、色いろお教えを受けました」

「水戸にはこの時代の原動力があると世間でよく云われる、老公と藤田氏と結びついたところには、たしかにそれがある、己は老公にもお眼通りしたし藤田氏とはかなり親しい往来があった、だから世間の評が誤りでないことは知っているが、……おまえはどう考える」

「田舎そだちでございますから」秀之進は眼を伏せた、「私などは井の蛙の知恵しかございませんが、世評とはかなり違ったものを勉強してまいりました」

「どういう点が違う……」

「ひと口に申上げれば、時代の原動力が水戸にあった時期は既に去っている、そういう感じです」

「井の蛙の管見か」

「そうかも知れません、けれども既に去っていると申しましたのは遠慮で、直截に云いますと過去のものにしなければならぬとさえ感じたのです」

「大胆な舌を叩くではないか」宗兵衛の眼が絞るように細くなった、「それは水戸を排せというように解釈されるが、そうなのか」

「私は竹隈で会沢氏の『新論』という著書を読みました、主旨はよくわかるし異存はないのですが、文章表現の点で困る部分が多いのをみつけたのです、日本を神州と謂い、海外諸国を挙げて蛮夷であるとする態度、全篇を掩っているこうした理性を欠いた表現は人を誤ります、……藤田先生にはずいぶん多く教えられまし