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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

たし、達人の見識として敬服したには違いありませんけれども、やっぱり会沢氏と共通する情熱の無算当な飛躍が……」

「ちょっと待て、情熱の無算当な飛躍というのはどんなことを指すのだ」

「理解の努力をせずして感情で事を決める態度とでも申しましょうか、例えばいま西欧諸国はどんな角度からみても蛮夷などという表現で片付けられるものではありません、彼等の有している文明は、神州不壊などという妄信の敵ではないのです、それを理解しようとせずして、或いは之に眼をつむって、夷狄なんするものぞと高吟するような態度は、無算当と云ってもいいと思います」秀之進は極めて静かにこう云いながら父を見た、「……藤田先生の見識はたしかに通俗を超えておられますが、その根にはやっぱりそういう気風が運命的に残っている、これは啓蒙時代には役立ったでしょうが、今日以後は困ると思います」

「その論調は西洋畏怖ではないのか」

「事実を事実として観たいのです、筆や舌頭で無根底な誇示に酔っている時は去りました、我われは相手を正しく知り、おのれを掛値なしに見直さなければならない、そういう時期に来ていると信じます、痴人の白昼夢より、寧ろ臆病者の算盤のほうを、私は採ります」