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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

「いたずらでございます」藤尾は屹とした調子で、こう云いながら笛を袋に納めた。あの事があって以来、彼女の寒笑に対する態度は際立って凛とし、話しかけることをさえ許さないような厳しい姿勢を見せていた。

「とんでもない、御謙遜でげす」こっちはかなり神経が鈍く出来ているから、そんなことにはお構いなしに力みだす、「私も劇場でながいこと飯を頂いた人間ですから、笛の音色のよしあしくらいはわかりやす、こう申しちゃあ口幅ったいようでげすが、お嬢さんのはなに流でございますかな」

「…………」藤尾は黙っている。

「お武家では三条とか甘露寺などという伝法があるそうでげすな、里神楽や下座鳴物の笛とは格別でげしょうが、実は私こんどの作の道具廻しに笛を使う積りでして、ちょっとまあ文献を調べてみたんでございます、へえ」

「またでたらめをお始めかい、おまえさんの作なんぞ笛が出たって太鼓が出たって代り栄えはありあしないよ、それよりなにか用があって来たんだろう、用から先に片付けたらどうなのさ」

「せっかく蘊蓄を傾けようと思うとこれだ、ひと口めにはおまえなんぞの作はとくるが、小説なんぞと軽く考えたら大間違いですぜ、なにげなく出て来る笛一本にしたところが、諸家を尋ねて故実来歴から名物まで調べ、これを婦人がたや子供衆にも理会のいくように、話の筋とうまく絡めて