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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

二

秀之進はすっと立って松林を出ていった。道の向うへ、足早に去ってゆく八十吉のうしろ姿が見える。

「追いかけよう」大助が走ってゆこうとした。

「だめだよ、捉えたって手向いをしなければそれまでだ」

「そんなことを云っていたらきまりをつけるときはないだろう」

「そう焦ってもしようがないさ」秀之進はこう云って元の道へと戻っていった。

二

茅野の駅へはいると、二人は通りがかりの宿へ昼食をとりに上った。もう時刻が過ぎて空腹でもあったし、跟けて来る者のようすも見たかった。それで草鞋を脱いで上り、風呂があるというのを幸いいっしょに汗を流した。

「さっき早水さんの云った、神社が超理論で存在するという点だけれど、超理論というと蒙昧という意味になりはしないかね」

「宗教というやつは元もと蒙昧なものじゃないのか」裸になると驚くほど逞しい肉付の、広い胸を平手で擦りながら、秀之進は悠くりとこう云った、「……仏教の経典を読んでも、よくは知らないが切支丹の聖書というのを覗いてみても、道徳律以外は奇蹟と安心立命の保証に充満している、詰り現実の汚穢と苦悩と悪徳、それに死の恐怖というもの、人間の力でうち克つことの困難な、苛烈な現実から救いを求めるところに宗教の起源はあると思う、だからその国土の自然的条件に恵まれないところ、社会状態が持久的に安定しない処では