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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页
「…………」秀之進は黙っていた。
「あの人を早水さんに引受けて貰えませんかね、色いろ考えてみた結果、その他にはないように思うんですが」
「……悪い癖だね」
「おせっかいの小言ならわかってますよ、あの人を富士から伴れて来たのからして」
「そうじゃないさ」秀之進は窓外を見たままこう遮った、「あのとき富士へ置いて来られなかったのは仕方がない、大さんがいなければ私だってそうしたろう、然し身の始末まで世話をやくことはないじゃないか」
「でも考えて呉れませんか、お小言なら幾らでも聞きますよ、あの人はまったくの孤独で、私でもどうかなった後はゆき処もない身の上ですからね」
「己だって明日のことは知れやしない」
「それだけですか」大助はじっと相手の横顔を見た、「そういう意味なら、現在の青年はみんな同じ状態なんで、一人だって安心して結婚のできる者なんかいませんよ」
「その話はよそう」
秀之進は強くそう云った、大助は黙った。この家の裏手に小川でもあるのか、だくだくと溢れるような流れの音が聞えて来る。
「どこへゆくんです」
刀を取って部屋を出ようとするので、大助が呼びとめた。秀之進はそのまま店先のほうへ去ってゆく。