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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页
秋の水
一
雷が頭上へ墜ちたかと思った。宗兵衛は全身に汗をおぼえながら畳へ老いの額をすりつけていた。
秋の水
一
昏れがたに大阪から船がはいり、その荷揚げが夜をこめておこなわれたし、一部は店のほうの土蔵へも運び込まれるので、塩屋町にある太橋屋の店は提灯をあかあかと表にかけ列ねて、かなり更けるまで人の出入りが賑やかにつづいた。
塩屋町から通町へかけては高松城下の問屋町ともいうべく、多くの老舗が軒を並べていた。太橋屋はそのなかでも指折りの店だったが、この数年はひだりまえだという噂がもっぱらで、もう挽回はできまいとさえ云われていた。それでその夜の活気立った荷揚げのありさまは、商売を盛り返したというよりも、かえって最後のひともがきという印象を与えたのである。
――落ち目になってからの悪あがきは重荷ときまっているのに、太橋さんほどの人にもそれがわからなくなるものか。
町筋の商人たちはそう囁きあい気のどくそうに見て見ぬふりをしていた。
十日ほど前に江戸から帰って来た大助は、使用人たちの先に立って、しきりに浜と店とを往来していたが、十二時頃になってひと区切りつけ、東浜の倉庫のひとつで酒と弁当のふるまいをした。