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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

「みんな三四代も太橋の飯を食っている者たちですからね、そうでなくともああいう人間は『頼む』と云われるとびっくりするような大胆なことをやります、しかしこんどの事はちょっと天佑という感じでした」

「ときに……木曽のほうはどうした」

そう云いかけて秀之進は床の上へ起きなおった。大助は煙管を置いた。

「残念ながら、三日の違いで先を越されました、こんどの買付けを知ったのか、それとも偶然かち合ったのかわからないが、尾州家から馬匹売買停止の布告が出て、どうにもしようがなかった、それで例の鋳工所のほうだけでも見て置こうと思ったのだが、これもだめさ」

「女づれではどちらにしても無理なことだ」

「そうじゃない、却ってそういうことには女づれのほうが好便なんですよ、いけなかったのは早水さんのおかげさ」

「でたらめをいうな」

「誰がでたらめを云いますか、木曽から大阪まで、宿でも道でも到るところで調べられどおしでしたぜ、いったいあなたはどうやって大阪へ出たんです、いやそれよりも、あれから五人やったという話を聞かせて下さい」

信濃の諏訪領で、雨の降る夜半にわかれたまま、二人が会うのは今はじめてである。