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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页
大助は藤尾と共に高島城下で朝を待ち、それからわざとゆっくり道をつづけて塩尻までいった。そして塩尻で三日待ったが秀之進は来ないし、そのうえ「高島城下の付近で讃岐の郷士が幕府の探索を五人斬った」という噂が伝わり、犯人の探索がにわかに厳しくなったので、心を残しながら木曽へ立ってしまったのであった。
「おれもちょっと驚いた」秀之進は苦笑しながら、「滝川ふくしんと寅寿のまわし者が急に『公儀の探索』となったのにはな、おそらくはじめからそういう連絡がついていたのだろう、そうとは知らぬものだから」
「五人みんなやったわけですか」
「……草原に風が渡っていた」秀之進はぽつんと云った、「それだけが眼にのこっている」
「なるほど、そういう表現もあるわけだ」大助はごまかされぬぞという眼つきをした、「正直のところ、すると五人とも始末をつけたんですね」
「なに、みんな一刀ずつさ、一人として片輪になる気遣いのない程度だよ、あれなら新島八十吉ひとりのほうが手耐えがあった」
「かれはどうしました」
「……どうしたかなあ」
ふっと、遠くを見るような眼つきをしたが、それはそのままで話を変え、天竜を下って、わざと東海道を大阪まで出た道次を語った。