轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页
そのときかれは一言のもとにはねつけられたし、考えてみると藤尾が承知しそうもないことに気づいたのである。いつぞや箱根の宿でかの女は、――わたくし、あの方を憎みました、人間はあのような眼で人を見るものではないと存じます、そう云ったことがある。今こそ秀之進の人柄は変っているが、あの時分のかれは正しくそういう印象を与えた。風雪の暴れ狂う富士の岩屋で、死と闘っている兄を抱え、いわば途方にくれていた藤尾にとって、秀之進の冷酷ともみえるあのときの一瞥は忘れがたいものに違いない。したがっていま「おれが嫁に貰う」と云われた大助は、その突然さに驚くよりも、藤尾の不承知が見えるようで、すぐには返辞ができなかった。
「しかし早水さん、わたしはまた亀阜荘へでも託すのかと思っていましたがねえ、そのほうが面倒がなくていいと」
「女は家の妻になるべきだ、落ち着くといえばそのほかにない」
「けれどいつか、信濃の宿でわたしがすすめたとき、早水さんはだいぶ違った意見のようでしたがね、なにか御思案が変ったんですか」
「あの娘の気性をみとどけたからだ、あれならおれがいなくなったあとのことが任せられる、早水家の嫁として家の始末、養父のゆくすえを託すことができるだろう」