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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

道草

一

道草

一

午に近い日光が乾いた道をぎらぎら照りつけていた。少しの風もないので、笠を冠っていながら頸筋まで流れるような汗だ。仕方がないから脱いで汗を拭き拭きする。いっそ脱いだまま歩いてもみるが、日ざしが強いのでそれも長くは続かない。――府中で休めばよかった、こう思って大助が後ろへ振返ったとき、いま通り過ぎて来た町のほうから、十ばかりになる子供が一人、なにか叫びながら此方へ駆けて来るのが見えた。「おじさーん、おじさーん」と呼ぶように聞える。立停っていると間もなく、もち竿を持って汗まみれになって側へやって来た。

「おじさんを呼んだのか、坊や」

「そうだよ」子供はまっ赤な顔ではあはあ云っていた、「さっきから呼んでるのに聞えなかったのかい、地蔵ノ辻からずっと追っかけて来たんだぜ」

「そいつは済まなかったな、それでおじさんになにか用があるのか」

「無くってさ、用があるから追っかけて来たんじゃないか、もういちど町まで帰るんだよ」

「町へ帰るって、おじさんがかい」

「当りきさ、そうでなくって誰が帰るもんか」おそろしくこまっちゃくれた子供である、「町へ帰って松八っていう宿屋へ泊るんだよ」