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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

「おまえの云うことはまるでわからないぜ坊や、どうしておじさんが町へ帰って、そのなんとかいう宿屋へ」

「松八だよ、本当は松田屋八兵衛っていうんだけど松八でちゃんとわかるんだ、けちなはたごなんかじゃないんだぜ」

「たいそう自慢するが、それじゃあ詰り坊やはその松八の客引なのかい」

「冗談じゃないや、おいら頼まれたから追っかけて来てやったんだ、そんな勘違いをされてたまるものか、だっておじさんは太橋ってえ名前だろう」

「びっくりさせるな、どうして太橋という名を知っているんだ」

「だから云ってるじゃないか、頼まれたんだってさ、あのおじさんを追っかけていって、太橋という人だったら町へ戻るように、そして松八へ泊るように云って呉れ、そういって頼まれたんだよ」

「それはどこの誰だ」大助は思わず道の上下を見やった、「どういう人間だいその人は」

「そんなこたあ知らないよ」子供はふと眩しそうに眼をそらした、「……なんでもいいから戻るんだよ、訳はあとでわかるってさ、おいらそれだけ云えばいいんだ、あばよ」

ちょっと待てと呼んだが、子供は見向きもせずに駆け去ってしまった。……子供は相手の人間を隠している。