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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

二

「つまらんぞ」そう呼ぶ声も聞えた。

秀之進は汀まで黙ってあるいていった。そして水の浸みこんだ平らな砂の上に足をつけたとき、久木直二郎が追いついて来て、なにか喚きながら前へ立ち塞がった。

「待てと云うのが聞えないか、きさま聾か」

秀之進は黙って眼をあげた。久木は大きく足をふみひらき、大剣の柄に手をかけながらのしかかるような声で叫んだ。

「きさまはわれわれを侮辱した、水戸武士は侮辱にあまんずる者ではない、あらためて挨拶をする、抜け」

「あなた方を侮辱したというんですか」秀之進はしずかに反問した、「拙者にはよくわかりませんが、いったいどう侮辱したというんですか」

「文句はいらん、抜け」

「いやですよ、拙者はあなた方を侮辱したとは思わないし、あなたとはたし合をする意味も認めません、いったいあなたはなにを怒っているんですか」

「おれが教えてやろう」あとから追いついて来た三人のうち、渡という青年が口を※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)んだ、「われわれは初めに身分も姓名もちゃんと名乗った、それなのに貴公は四国の讃岐だというだけで、身分も名も答えていない、武士と武士との応待でこれが侮辱に当るという事を貴公は知らないのか」