轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
やなぎばしものがたり
柳橋物語
山本 周五郎
前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页
眼のまえが暗くなり、地面が波のように揺れだした。――あれはお嫁さんだわ。嘔吐しながらそんなことを思った。あのひとが庄さんの嫁である、いま自分の見たあのひとが庄さんの嫁である、いま自分の見たあのひとが庄さんと御夫婦になったのである、庄さんはあのひとと仕合せに暮しているのだ。……誰かがそばでなにか云っている、どうやら自分を介抱して呉れているらしい。立たなければならない。立って家へ帰らなければ。――おせんは立上った、そしてまたふらふらと歩きだした。耳の中でごうごうと、大きな音がし始めた、赤い恐ろしい焔が見える、街並の家がそこにちゃんと見えているのにそれとは別に眩しいような火焔がそこらいちめんに拡がってみえる、喉を焦がすような、熱い噎っぽい煙の渦、髪毛から青い火をたてながら、焔の中へとびこんでゆく女の姿、……そして巨大な釜戸の咆えるような、凄まじい火の音をとおして、訴え嘆くようなあの声が聞えてきた。
――おせんちゃん、おらあ辛かった、おらあ苦しかった、本当におらあ苦しかったぜ。
おせんは悲鳴をあげながら道の上へ倒れた。
自分ではもちろん覚えがない。東本願寺の角のところで倒れたのを、いちど番所へ担ぎこまれたが、そこに佐野正へ出入りする人がいて、これは足袋屋の仕事をしている者だと知らせて呉れた。