轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

やなぎばしものがたり

柳橋物語

山本 周五郎

前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页

青空文庫

そうではないと云っても信じて呉れない。記憶があいまいで説明することはできないが、繰り返して主張すると、「まだあたまが本当でないのだからそんなことは考えないほうがいい」などと云って相手にならなかった。それだけならまだいいけれども、十二月中旬ごろだったろう、新しく人別(戸籍)を作るということで、町役の人たちが来て赤児とその父親の名をきかれた。おせんはなにも云えなかったが、勘さんがすぐに、

「これはあの晩の騒ぎであたまを悪くしてますから」

と、代りに答えて呉れた。

「なにしろお祖父さんと誰とかが死んじまったていことは知ってるだが、そのほかのことはなにも忘れちまったらしいんですよ、自分の名はおせん、赤ン坊はこう坊って呼んでますが、幸吉とか幸太郎とかいうんでしょう、そいつも覚えちゃいねえようです」

「父親知れず、母おせんか」町役の人はなんの関心もなくそう書き留めた、「――それじゃ子供の名は幸太郎とでもしておくか」

おせんはこの問答を黙って聞いていたのだが、幸太郎という名が耳についたとき危うく叫びそうになるほど吃驚した。なぜそんなに驚いたのか自分もわからない、ただその名が自分にとって不吉な、たいへん悪い意味のものだという感じだけは慥かだった。