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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

そのうち次郎は、俊三にきけば、算盤のことがきっとはっきりするにちがいない、ひょっとすると壊したのは彼だかも知れない、と思った。

「俊ちゃん、何してる?」

彼はやさしくたずねてみた。

「うん……」

俊三はわけのわからぬ返事をしながら、敷居をまたいで中に這入ったが、まだ背中を戸によせかけたままで、もじもじしている。

次郎は立ち上って、自分から俊三のそばに行った。

「算盛こわしたのは俊ちゃんじゃない?」

「…………」

俊三はうつ向いたまま、下駄で土間の土をこすった。

「僕、誰にも言わないから、言ってよ。」

「あのね……」

「うむ。」

「僕、こわしたの。」

次郎はしめたと思った。しかし彼は興奮しなかった。

「どうしてこわしたの?」

彼はいやに落ちついてたずねた。そしてさっき自分が母に訊ねられた通りのことを言っているのに気がついて、変な気がした。

「転がしてたら、石の上に落っこちたの。」

「縁側から?」

「そう。」

「お祖父さんの算盤って、大きいかい?」

「ううん、このぐらい。」

俊三は両手を七八寸の距離に拡げてみせた。次郎は、いつの間にか、俊三が憎めなくなっていた。

「俊ちゃん、もうあっちに行っといで。