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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

二三 蝗の首

誰も彼もが、その声に誘われて鼻をすすった。

「三日前から、もう自分の臨終を知って、家の中まで見廻るなんて、何という落ちついた仏様でしょう。」

お祖母さんは、声をふるわせながら、そう言って、仏の瞼をさすった。

「ほんとうに。」

「ほんとうに。」

お祖母さんに合槌をうつ声が、そこここから聞えた。そして、また一しきり念仏の声が室内に流れた。

次郎は、しかし、やはり悲しい気分にはなれなかった。

(お祖母さんは、きっとまたそのうちにカステラのことを思い出すだろう。)

彼はそんなことを考えていた。しかしそれは決して、お祖母さんに対する皮肉や何かではなかった。「死ねば何もかも終る」という彼の考えが、「死ななければ何一つおしまいにはならない」という考えに移っていったまでのことだったのである。

二三 蝗の首

由夫と竜一とは、学用品を入れた雑嚢を路に放り出して、蝗の首取り競争をはじめている。蝗を捕えては、それを着物の襟に噛みつかせて、急に胴を引っぱると、首だけがすぽりと抜けて襟に残る。それはいかにも残酷な遊びなのである。

「僕、もう五疋だぜ。」

と、由夫がにやにやしながら言う。