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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
三〇 十五夜
そして次郎の両手を握って、彼を自分の方に引きよせながら、闇をすかして、その顔を覗きこんだ。
「お前は、まだ乳母やのことが忘れられないのか。」
老人の声はふるえていた。次郎は叱られていると思って、握られた手を、無理に引っこめようとした。
「叱っているんじゃない。乳母やに逢いたけりゃ、このお祖父さんが今に逢わしてやる。だから、きっと偉くなるんじゃぞ。」
次郎はしゃくり上げそうになるのを、じっとこらえてうなずいた。
二人が、正木の家の門口に近づいたころ、北方の空を二つに割って、斜に大きな星が流れた。
「あっ。」
次郎は、声をあげてそれを仰いだが、その光が空に吸いこまれると、彼の眼は、いつの間にか北極星を凝視していた。
しかし、彼が「永遠」と「運命」と「愛」とを、はっきり結びつけて考えうるまでには、彼は、まだこれから、いろいろの経験をなめなければならないであろう。
三〇 十五夜
次郎が正木の家に預けられてから、十四五日の間は、ほとんど一日おきぐらいに、お民が訪ねて来た。もっとも、それは次郎の顔を見たいためではなかった。彼女がやって来るのは、いつも次郎が学校に出たあとだったし、たまたま顔をあわせることがあっても、