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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

一八 菓子折

」

次郎は、父に卑怯だと思われたくなかった。卑怯だと思われないためには、やはり罪を被る方がいいと思った。

「僕、こわしたんだい。」

彼は、はっきりそう答えて、父の顔色をうかがった。

すると、俊亮は、提灯の灯に照らされた次郎の顔を、穴のあくほど見つめながら、

「父さんに嘘は言わないだろうな。」

次郎は何だか気味悪くなった。

「父さんは嘘をつく子は嫌いだ。……だが、まあいい、父さんはお前の言うことを信用しよう。しかし、飯も食わないで、こんな所にかくれているのは、よくないぞ。さあ父さんと一緒に、あちらに行くんだ。」

次郎は、そう言われると急に涙がこみあげて来た。

「馬鹿! 今頃になって泣く奴があるか。」

次郎は、しかし、泣きやまなかった。俊亮は永いこと默ってそれを見つめていた。

一八 菓子折

算盤事件は、とうとう誰にも本当のことが解らずじまいになった。

俊亮とお民とは、それについて、まるで正反対の推測をして、次郎の子供らしくないのに心を痛めた。

次郎と俊三とは、その後、口にこそ出さなかったが、顔を見合わせさえすれば、すぐ算盤のことを思い浮かべるのだった。次郎の立場は、むろんそのためにいつも有利になった。