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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

四 提灯

そして、急に名状しがたい悲しさがこみ上げて来た。彼は、走りながら、精一ぱいの声を出して泣き出した。

校門までくると、そこにはお浜が身を忍ばせるようにして、彼を待っていた。彼はもう一度大声をあげて泣きながら彼女に飛びついた。お浜は默って身をこごめながら、彼に頬ずりした。

次郎の涙は、そろそろ甘いものに変っていった。そして心が落ちつくにつれて、彼はお浜に抱きついている自分の両手の指先が、妙にぬるぬるするのに気づき出した。彼は涙のたまった眼をしばだたきながら、そっと指先をのぞいて見た。血だ。どす黒い血のかたまりだ。

彼は、それをお浜に見られてはならないような気がした。で、甘ったれた息ずすりをしながら、そっと指先をお浜の着物になすりつけてしまったのである。

四 提灯

耳たぶ一件以来、次郎の警戒心は急に強くなった。たといお浜と一緒であっても、もし彼女が校門を出て南の方角に行きそうになると、彼はすぐ握られた手を振り放した。また彼は、それっきり、どんなに誘いをかけられても、よその人におんぶされたり、その肩車に乗ったりはしなくなった。

「もうそんなことをするのが恥ずかしいんですよ。