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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

一三 窮鼠

で、結局お民が一緒について帰ることになった。

次郎は、傷が痛んで、よく眠れなかった。しかし、俊亮が自分と床をならべて寝ているうえに、お浜が夜どおし枕元に坐っていてくれたので、彼にとって、さほど不幸な晩であるとはいえなかった。

一三 窮鼠

年が明けた。愛されるものにも、愛されないものにも、時間だけは平等に流れてゆく。

菜種の花がちらほら咲きそめる頃には、次郎もいよいよ学校に通い出した。彼は学校に行くのが何よりの楽しみだった。で、毎朝恭一が、みんなに何かと世話を焼いてもらっている間に、さっさと一人で先に飛び出して行くのだった。

教室は男女一しょだった。次郎は、一番前列の窓ぎわに、偶然にも、お鶴と席をならべることになった。お鶴の頬には、相変らず「お玉杓子」がくっついていた。もっとも、彼はお鶴の右側にいたので、しょっちゅうそれが眼につくわけではなかった。

授業は初めのうち午前中ですんだ。授業がすむと、二人はすぐ校番室に行って、お浜がいつも用意しておいてくれる握飯と沢庵をたべた。握飯には、きまって胡麻塩がつけてあり、沢庵は麻縄のように硬かった。その前に坐ると、彼らの唾液は滾々と流れた。