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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

九 雑のう

で、すぐ表に飛び出して、父が出て来るのを三四町さきの曲り角にしゃがんで待っていた。日がちょうど落ちたばかりで、道はまだ十分に明るかった。

父の自転車が、ごとごとと砂利道をころがって来るのを見ると、彼は立ち上って、

「父ちゃん!」と呼んだ。

「何だ、お前こんなところにいたのか。」

俊亮は自転車をおりて、次郎の顔を無造作に撫でながら、

「もう六つ寝ると、また帰って来る。ひとりで大川に行くんじゃないぞ。父ちゃんがつれて行ってやるからな。」

次郎は、ここで父を待っていたのが無駄ではなかったような気がして、嬉しかった。そして、父が再び自転車に乗って走って行く姿を、立ったまま永いこと見つめていた。

九 雑のう

夏が過ぎた。次郎がこの家に来てから、まだやっと一ヵ月そこそこである。しかし、彼はだいぶ新しい生活に慣れて来た。

慣れて来たといっても、それは決して、彼の気持が愉快に落ちついて来た、という意味ではない。

彼は、絶えず用心深く家の人たちの動静を窺った。また彼らの言葉のはしばしから、すばしこくその心を読むことに努めた。その点では、彼は来た当座よりも、ずっと卑怯になったように思える。