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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

二六 没落

*

傷が治ってからも、彼は毎日のように竜一の家に遊びに行った。

そのうちに、次郎は竜一にならって、春子を「姉ちゃん」と呼ぶようになってしまった。最初にそう呼ぶ機会を捉えるためには、次郎は一方ならぬ苦心をした。三人で何か取り合いっこをして、大はしゃぎにはしゃいでいる最中、竜一が、

「姉ちゃん、いけないや。」

と言ったのを、そのまま自分も真似てみたのが始まりだった。真似てみて、次郎は顔を真赧にした。しかし、春子も竜一も、まるで気がつかなかったふうだったので、彼は勇気を得、それから盛んに、「姉ちゃん」を連発した。そして、その日は、とうとう二人にそれを気づかれずにすんでしまった。

「あら、いつから次郎ちゃんは、あたしを姉ちゃんって呼ぶようになったの。」

そう言って、春子が不思議がったのは、それから随分たってからのことであった。

二六 没落

「貴方、どうなさるおつもり? 恭一も、折角ああして中学校にはいる準備をしていますのに。」

「中学校ぐらい、どうにかなるさ。」

「どうにかなるとおっしゃったって、四里もある道を通学させるわけにはいきませんわ。どうせ寄宿舎とか下宿とかいうことになるんでしょう?」